私の学んだ山間部の中学校では、高校へ進学する生徒は全体の6割くらい、4割の生徒は就職であった。卒業して都市の工場に勤務する者、畳職人、菓子職人として弟子入りするものなど、すぐに社会に出て働く割合は現在と比べると、とても多かった。そこを配慮したのか、卒業生を前にして、ＰＴＡの会長さんは「卒業していく皆さんに、『後楽園』という言葉を送ります。これからは、つらいこと、苦しいことが多いと思います。でも一生懸命頑張って、後で楽しむ、ということを覚えておいてください。」そんな話をされた。後楽園の名前の由来は「先憂後楽」（民衆より先に天下国家のことを心配し、自分のことは後回しにする）という,政治を行う者の心構えを説いた言葉であるようだが、私にとっては卒業式でＰＴＡの会長さんが激励してくれた、「楽しみは後で」がずっと記憶に残っている。あれから46年が経つ。さて、いつまでが「前」でいつからが「後」かはわからないが、我が子が結婚し、孫が生まれ、その孫に昔話の童話本を読んで聞かせるような楽しみができたこの頃、なるほど、「後楽園」に少しだけ入ることができたのかなと思う。