空き家になった山間部にある実家の後始末をするために、少しずつ家の中の整理を始めている。その折、中学校を卒業するときの記念文集が出てきた。日焼けによる変色が激しいが全員の文が読める。最初のページは校長先生だ。さていよいよお別れです。と始まる文の中には、いったいどんなことが書かれていたのかと、なつかしく読み始めた。当時、高校に進学する生徒と就職する生徒の割合は半分半分だった。そのせいか、先生のお話は働くことへの心構えと健康を気遣う内容になっていた。「故郷に錦を飾れといっても、決して大臣になれ、代議士になれ、金持ちになれと願っているのではありません。まもなく何かの職につかなければなりませんが、仕事は何をしてもよいから、丈夫で・正直で・よく働く人になってくれと願っているのです。このような平凡だけれど筋金を持った人が、いつの日かこの故郷の山々を美しくなつかしく眺めることができるのではないでしょうか。」こう結んだ先生の、特に「正直」という言葉にしばし魅せられてしまった。昨今の政治家や官僚に聞かせたい校長先生の贈る言葉である。