教科書の中に出てくる人名と著書で、気になってはいるが読んだことのない本がたくさんある。しかし何かのきっかけがないとまず読まない。さて宮沢賢治（1896～1933）の「アメニモマケズ」、「注文の多い料理店」は小学校の教科書でその内容を学ぶが、童話で「セロ引きのゴーシュ」というのがあり、これは読んでいなかった。ちょっとしたきっかけがありさっそく読んでみた。･･･ゴーシュは町の活動写真館の楽団でセロ（チェロ）を弾く青年だった。1人で町外れの水車小屋に住んでいる。演奏があまりにも下手なためにいつも楽長に厳しく叱られていた。そんなゴーシュのところに、さまざまな動物が夜毎に訪れ、いろいろと理由を付けてゴーシュに演奏を依頼する。まず、猫、かっこう、そして、狸、野鼠の親子の順である。その動物たちと交流をしていくうちに、自分では気がつかないが、いつのまにか演奏の腕前が上達する。成功した演奏会のアンコールでは楽長から指名されたゴーシュが聴衆からの賞賛をうける。･･･動物達からの恩恵と、努力と成長の物語である。作者、宮沢賢治の産まれた1896年は日清戦争の2年後、亡くなった1933年は満州事変、5･15事件をへて日本が国際連盟を脱退した年だ。激動の時代の中でたくさんの名作を残した宮沢賢治について、他の読者の感想、チェロという楽器と楽曲、なぜ37歳の若さで亡くなったのか、どうして独身だったか、その時代背景、彼の生い立ちから職歴など、調べようとすればネットを使ってさまざまな情報が集まる。30分で読める「セロ引きのゴーシュ」だが、そうした情報まで探すとさらに深みが増す作品だ。