学習塾をはじめて間もないころ、中学時代の恩師を訪ねた。私が中学一年生のときに担任だった数学の教師である。当時の先生は大学を卒業したばかりで元気いっぱいの教師であった。「そうか、今度は君が中学生に数学や英語を教えるのだね。」とおっしゃってから、こんな話をしてくださった。「荷物をいっぱい積んだ荷車を、ある人が人力で引っ張っている。道が悪くて、穴に車輪がはまってしまい、動けなくなった。何度も勢いをつけてやってみるだが車輪は穴から脱出できない。そこへ神様があらわれて荷車を後ろから押してくれた。荷車はやっと動き出す。荷車を引いている人には神様の姿が見えないので、押してくれたことに気がつかない。一生懸命にがんばって自分の力で脱出できたのだと思っている。荷車を引っ張っている人が生徒で、この神様の役目が教師なんだよ。」そんな話してくれた。先生というのは寂しいものなんだと感じて帰宅した。それからしばらくたった、ある日の授業の始めに、「おじさんのホントの仕事は何？」と小学生の塾生から質問された。「うーん。神様！」と答えた。あれからずいぶんと時間が経った。神様にはなかなかなれないが、学習塾はホントの仕事になった。