「天災は忘れたころにやってくる」という言葉を聞いたことがあると思う。防災によく使われる警句だ。物理学者で随筆家でもあった寺田寅彦が言い出したといわれている。私が高校生だった頃、クラス担任だった物理の教師が「寺田寅彦は物理現象を、生活の中で平凡であたりまえだと思うような事柄を例にしておもしろく説明している。たとえば『茶碗の湯』という随筆を読んでみるといい」と話されたことがきっかけで、寺田虎彦の随筆の本は愛読書となって本棚に置いてある。
　『茶碗の湯』は水の性質から始まり、物質の変化、光の性質、気象変化などが興味深く書かれている。最近はインターネットの「青空文庫」で彼の随筆集のほとんどをダウンロードできる。それらの作品のひとつに『数学と語学』というのがある。内容は・・・数学と語学では学習方法にかなり似通った秘訣があるという。英語なら単語と文法を覚えなければならない。しかし一通りの理解、暗記だけではだめで、長い修練によってやっと体得できる。数学も教科書や講義を全部暗記しただけではだめで、符号や公式の意味を徹底的に飲み込む必要がある。そして日本語の上手な漢字も自由に書けるドイツ人の例を出して、そのドイツ人が漢字を学ぶ方法は、ただ暇さえあれば漢字とにらめっこすることだといっていた。・・・こうした内容が書かれている。つまり「根気」が必要条件だということだ。暇さえあれば教科書やテキストとにらめっこか。なるほどと改めて思う。

寺田寅彦：1878年（明治11年）～1935年（昭和10年）戦前の日本の物理学者、随筆家