ある嵐の夜、1人の男が酪農を営む農場を訪れ、風雨をしのぐのにどこでもいいから泊めてほしいと頼む。『遙かなる山の呼び声』という映画の始めの場面だ。この男を演じるのは、わたしの世代なら誰でも知っている高倉健という男優だ。一方、農場主は亡くなった夫が開拓した農場で牛飼いをしながら一人息子を育てている民子という女性だ。民子は男を納屋に泊まらせる。その深夜に牛の出産があり、それを手伝った翌朝、男は立ち去るが再び訪ねてきて、「ここで働かせてほしい」と懇願する。この時の二人の会話が印象深い。

女「こんな小さな牧場だから給料もあまり出せないし・・」

男「食べさせてもらえるだけでいいです」

女「一週間に一度、日曜日くらいは休みもほしいでしょ・・・」

男「そんなものいりません」

実はこの男はある理不尽なことから犯罪を犯して逃げていて、生きるのに必死なのだ。映画を全部観ればきっとこの男に同情する気持ちがわくだろう。さて私はこの、「日曜日、そんなものいりません」。というところが妙に気に入っている。昔は学校は日曜と祭日が休みで土曜日は休みではなかった。会社も土曜日が休みはなかった。今は週休2日制がいきわたっている。さらに祭日も土日の前後にくっつけてなるべく長い休みを作っている。まあそれはそれでいいのだが、さてこの時期、高校受験をした3年生は皆、入試直前には曜日の区別などなく、それこそ必死に勉強した。塾生が毎日塾に来て5時間も6時間も勉強している姿を見ていると、まさに、「日曜日、そんなものいりません」の気持ちだっただろうと思う。その真剣な気持ちは希望を現実なものに変え、第一志への合格につながった。この体験こそが、これからの高校生活の学習に大きく影響していく思う。